「命をいただく営みを、もっと伝えていきたい」——。令和7年5月27日、地域活性化起業人のシティプロモーション事業として町の畜産業の現場を視察した私たちは、寿畜産の村上朋恵さんから深い思いと実践の数々を伺いました。放牧という手法に込めた愛情、命への眼差し、その一つひとつに、地域の未来へのヒントがありました。


―――隠岐の風土を活かす、放牧スタイルの畜産


視察当日、私たちが訪れたのは町内の畜産農家の寿畜産。取締役の村上朋恵さんが、穏やかな笑顔で出迎えてくださいました。

寿畜産では現在、約70頭の牛を牛舎と放牧を組み合わせて育てておられます。「牛の快適さを第一に考えています」と村上さん。放牧することで、牛たちは足腰が鍛えられ、集団生活を通じて危機察知や上下関係を学び、社会性のある賢い牛に育つそうです。

「母牛ごとに性格が違うんですよ。まるで人間の育児と一緒で、我が子を慈しむように接している姿には、毎日学ばされます」と話されるその表情には、命に向き合う誠実さがにじみ出ていました。

最新機材の導入で死産事故ゼロを達成した実績や、母牛が生涯を終えるまで丁寧に育て、その命を「食」として島の人に届ける取り組みも進んでいます。今後は経産牛ハンバーグや肉味噌といった商品展開も視野に入れ、ふるさと納税返礼品としての展開も計画中とのことです。

「市場では脂が多く見た目の良い肉が評価されがち。でも私は、命と向き合う飼育方法そのものを価値として伝えたい。共感してくださる方に選んでもらえたら」と村上さん。

牛たちを通して伝えたいのは、「命の大切さ」「自分自身の大切さ」「母の大切さ」。その言葉に、畜産の枠を超えた大きな使命感が感じられました。


―――「牛の縁」が「人の縁」へ。町の中から広がる未来の循環


この日、地域活性化起業人の照井さん・角田さん・伊東さんも同行され、村上さんの取り組みに深く共感されていました。

視察後の意見交換の場では、「寿畜産さんの想いや姿勢がきちんと伝わるように、どのような形でPRしていくのが良いか、丁寧に考えていきたい」といった前向きな声が寄せられました。単に“売る”のではなく、“伝える”ことを大切にしたいという、思いを共有できた場となりました。

「今、畜産の現場では産業の衰退が進んでいます。でも私は、次の世代にもこの営みを伝えたいと思っています」と村上さん。「この牛たちの縁が人と人との縁をもつないでくれている——」。

そうした思いの積み重ねが、きっと地域の持続可能な産業づくりや、町の魅力発信につながっていくのだと感じた一日でした。


牛と真摯に向き合う日々の中で、村上さんが育てておられるのは、牛だけではなく、地域の未来そのものかもしれません。町の暮らしの中にある“語るべき物語”を、これからも丁寧に発信していきたいと思います。「あなたが思う、町の“物語”はどこにありますか?」そんな声を、皆さんからもお聞かせいただけたらうれしいです。


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隠岐の島町役場 地域振興課 政策企画係
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