10月23日、少し風が強い秋晴れの空の下、今年も奈良県立十津川高等学校の生徒のみなさんが隠岐の島町を訪れてくださいました。私たちにとっても、この季節になると「またあの笑顔に会える」と、毎年うれしい気持ちになります。
毎年恒例の隠岐への修学旅行も、今年でなんと21年目になりました。
さて、なぜ奈良県の山あいにある十津川高校が、遠く離れた隠岐の島へ修学旅行に来るのか――。その理由は、今から160年あまり前にさかのぼります。
十津川高校の前身は、元治元年(1864年)に設立された「文武館(ぶんぶかん)」という学び舎です。その創設者が、隠岐の島町中村出身の儒学者・中沼了三(なかぬまりょうぞう)先生でした。中沼先生は、孝明天皇の勅命を受けて十津川に赴き、地域の子どもたちの教育の礎を築かれました。
その後、故郷の隠岐に戻られた際には、慶応4年(1868年)に起きた「隠岐騒動」で島民の精神的支柱として人々を導かれるなど、隠岐の歴史にも深く名を残されています。
この深いご縁を大切にしようと、21年前から十津川高校では修学旅行の一環として隠岐の島町を訪問し、地元の「中沼了三先生顕彰会」の皆さんが中心となってそれを迎え入れるという行事が始まったのです。
午前中は隠岐自然観で隠岐の自然についてレクチャーを受けたあと、生徒のみなさんは中村地区にある顕彰碑のもとへ向かいました。
この日も例年どおり、中沼了三先生顕彰会の皆さんから温かいご挨拶がありました。「先生が両方の地をつなげてくださったおかげで、こうして若い皆さんに再び会えることをうれしく思います」――そんな言葉に、生徒たちもうなずきながら耳を傾けていました。
続いて、十津川高校生による校歌の斉唱。歓迎のお返しとばかりに、力強い歌声が中村の海風に乗って響き渡りました。顕彰碑の前で聴くその歌声には、「学びを絶やさず受け継いでいく」という決意のようなものが感じられ、私たちも胸が熱くなりました。
21年続くこの交流は、単なる学校行事ではなく、「自らの教育の原点をたずねる旅」として学校と地域に根づいています。
碑の周りには、かつて先生が暮らし、教えを説いた土地の風が吹き抜け、毎年訪れる十津川の生徒たちを静かに迎え入れています。若い世代が先生の足跡に触れ、島の人々と心を交わす――その姿を見るたび、時代を超えて受け継がれる絆の強さを改めて感じます。
厳かな時間を終えたあとは、いよいよ次の目的地「さざえ村」へ。中村の海を目の前に、笑顔あふれる昼食の時間が待っています。
顕彰碑での集いを終えた十津川高校の生徒たちは、昼食会場である「さざえ村」へと移動しました。中村の海を目の前にした開放的な場所で、海の幸やお肉をふんだんに使った豪華なバーベキューが準備されています。
生徒たちは、海辺の生け簀に放たれたサザエやタコを獲る体験にも挑戦しました。はじめはおそるおそるヤス(サザエを獲る道具)を伸ばしていた生徒も、コツをつかむと笑顔いっぱい。生きた海産物をそのまま網の上で焼き、それを味わう姿は、見ている私たちにも元気を分けてくれるようでした。
潮の香りと炭火の香ばしい匂いが混じる中、「こんなにおいしいサザエは初めて!」「もう隠岐に住もうかな」などと話す生徒たちに、私たちも思わず笑顔になりました。
食後には、都万の海洋スポーツセンターへ移動し、少し冷たい風の中でカヌーなどのマリンレジャーを楽しみました。
中沼了三先生の教えがつないだご縁をきっかけに、こうして隠岐の自然や人々とふれあい、笑顔を交わす時間が生まれる――それこそが、この交流の何よりの財産だと感じます。
これからもこの繋がりが末永く続いていき、来年もまた元気な姿で隠岐を訪れてくれることを心より願っています。
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